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仁義なき宅配・宅配業界が過酷になってしまったのはなぜ?

仁義なき宅配

仁義なき宅配

 

ヤマト運輸の値上げのニュースが話題になってます。ヤマト運輸の値上げは27年ぶり。値上げだけではありません。様々なサービスの見直しも検討しているようです。

今までに発表されたサービスの見直しはこのようになってます。

・個人向けの送料を今秋に値上げ。
・大口顧客顧客との値上げ交渉を開始。
・正午から午後2時の時間帯指定を廃止。
・午後8~9時の時間帯指定を午後7~9時へ変更。
・2017年度は2016年度の荷物の量を超えないように制限する。
・都市部の宅配ロッカーを増加させる。

ところで今問題になってる宅配業界の問題点について2年前に指摘した本があります。仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾンという本です。

通販業界によって過酷な労働と強いられ利益を奪われる宅配業界と宅配業界の体質。宅配を利用する側の問題を鋭く指摘していル本です。

目次

仁義なき宅配の内容

この本は体験取材を得意とする横田増生氏が書いた本。著者がヤマト運輸、佐川急便で働いたり、ドライバーの車に同情したりして過酷な現場を取材したものです。それとともに佐川急便、ヤマト運輸の歴史についても書かれています。

通販業界と宅配業者の関係

「仁義なき宅配」によると、ヤマト運輸は一般家庭の荷物を預かる宅急便の売り上げが頭打ちになると企業からの受注を増やしていきました。しかしアマゾンの荷物を扱ったことが宅配業界を苦しめることになりました。アマゾンのような巨大企業になると交渉力は一般の事業者の比ではありません。

アマゾンが日本に上陸した2000年ごろ。1500円以上の買い物で送料無料でした。荷物を運んでいたのは日通でした。当時、アマゾンが日通に支払った運賃は1個300円といわれます。

その後、佐川が日通より安い値段で請け負います。アマゾンの荷物は日通から佐川に移りました。佐川の受け取る運賃は1個250円。一般客が送れば750円するところをその値段で運んでいるのですからいかに安い値段かわかります。

アマゾンの仕事を日通から奪った佐川ですが、大量に増えた荷物に現場の負担が大きくなります。配達の遅れ、配達先の間違い、事故発生率も増加しました。量は多いけど利益は最低な荷物が増えたことにより佐川の収益も悪化。仕事は増えたのにサービスも収益も悪くなってしまったそうです。

消耗戦突入

アマゾンの荷物はヤマトと佐川の二強対決に突入します。お互いの経営体力を削りあう消耗戦になりました。通販業者は2年おきに配送業者を呼んで互いに値下げ競争をさせます。例えば(あくまで例えです本当の値段はわかりません)、現在佐川が450円で扱っていたらヤマトが450円以下で落札。この値引き競争を短い間隔で行うのが通販業界なのだそうです。この方法を繰り返す限り、値上げはありません。ひたすら値段が下がる一方です。

アマゾンは本国のアメリカでこの手法を行って輸送量を下げることに成功していました。同じ手法を日本でも行いました。

下請けも逃げる厳しさ

アマゾンからの値下げ要求に応じた佐川やヤマト運輸は利益が減ります。すると下請け業者への支払いを減らします。その結果「佐川についていって大丈夫なのか」と考える下請け業者は佐川との取引を打ち切ったといいます。佐川からの仕事を失うことより、あまりにも過酷さに社員が辞めてしまうことを恐れたのです。

通販業界 → 大手運送会社 → 下請け業者

企業間にもこのような上下関係があることがわかります。どの業界でも同じなのですが。強者が弱者から搾り取る現象が輸送業界でも起きているのです。

佐川が撤退

2012年。ついに佐川は値上げ交渉します。しかし、アマゾンは値引きを要求します。さらにメール便の再配達も要求しました。当時メール便は郵便受けに入れて終わりのサービス。それを不在なら再配達するように要求したのです。当然、配達者は同じ場所に何度も配達先に行くことになります。そうなると他の配達場所に行く時間が削られます。

いくら物量が多くてもうちはボランティアじゃない」ということでアマゾンとの取引は打ち切られました。

佐川は大型荷物だけを扱い、宅配便クラスの荷物から撤退しました。

ヤマト運輸が抱えた負担

アマゾンの仕事の多くを引き受けたのはヤマト運輸でした。ヤマト運輸は一社ではさばききれないので佐川か日本郵便と分担して運ぼうとしたようです。もちろん佐川が運ぶはずがありません。結局、メール便は日本郵便が運ぶことになり、一般の荷物はヤマト運輸が運ぶことになりました。当然、現場は負担が大きくなって耐えきれません。

その後もヤマトはクール便を常温で仕分けしていたりと問題が発覚。ヤマト運輸が耐えきれなくなり、2014年以降アマゾンとの交渉で値上げしました。

2015年発行の「仁義なき宅配」ではここまですが。その後も宅配業者と通販業界では様々なやりとりがあったのでしょう。

新聞報道によると2015年のデータと2017年の予想を比較するとヤマト運輸は経営が悪化していることがわかります。

2015年。     売り上げ 700億円。宅配便の総数:約16億個
2017年(予想)。 売り上げ 580億円。宅配便の総数:約18.7億個

扱う個数は増えているのに売り上げは減っているのです。つまりそれだけ安くなっているということです。

宅配便のしくみ

宅配便はどのようにして運ばれてくるのでしょうか。

「仁義なき宅配」によると。このような流れになってるようです。

 

顧客

セールスドライバーが荷物を受け取る

宅急便センターに持ち帰る

大型トラックでベースに運ぶ

ベース(仕分け拠点)、配達先を方面ごとに分ける。

下請けの長距離トラックで遠隔地に運ぶ。

ベース(仕分け拠点)で荷物を受け取る。仕分けをする。

トラックで宅急便センターに運ぶ

宅急便センターで細かい仕分けをする。

セールスドライバーが顧客に運ぶ。

ベース:全国70箇所にある仕分けの拠点。都道府県ごとにあります(都市部では複数)。
宅急便センター:全国にある宅急便の事務所。市内にも何箇所もありますね。

セールスドライバーだけでなく、宅急便センターで叩く人、ベースで働く人、下請けの長距離トラック。配達も下請けが行う場合もあります。

こうしてみると大勢の人と手間が関わっているんですね。

売上高に占める人件費は50%になるという。典型的な人力で動いてる産業といえますね。

ヤマト運輸の売上はファーストリテイリング(ユニクロ)とほぼ同じくらいですが、従業員数はヤマト運輸が20万人に対してファーストリテイリングは3万人強。それだけ人手のかかる産業なんですね。

サービス残業当たり前

人件費のかかる宅配業界ですから、売上の低下は働く人の給料や待遇に直結します。
一ヶ月の残業が110時間となって過労死した人も出ています。宅配業界ではサービス残業が当たり前となり、ひどい場合はサービス残業だけで月100時間の人もいるといいます。

このような社員の証言も載っていました。

サービス残業をこなすのは暗黙のルールのようになってます。サービス残業ありきの会社だと割り切っていますから。

これでは過労死するのが当たり前です。

コンプライアンス(法令遵守)を掲げる企業は多いですが。賃金の支払いという「労働基準法違反」をするのは当たり前。コンプライアンスはたんなる宣伝文句。実態はないも同じなのす。

他にもドライバーや仕分けの現場で働いた体験も載ってます。でも読んだらここで働くのが怖くなる内容ですので書きません。もちろん全てがそうだとはいえませんが。僕が直接セールスドライバーの人から聞いた話でも似たようなものはありました。過酷な現場なのは間違いないようです。

マスコミも値下げ要求の圧力

本の内容とは違いますが。関連した話題を少々。

ヤマト運輸値上げの発表に対してTV番組「ビビット」の出演者は「値上げをせずにもっと企業努力すべきだ」とムキになってました。僕はたまたま見たのでこの番組のことはよく知りません。でもどれだけ大変なことになってるのかぜんぜん理解してないな、と思いました。この程度の理解でよくもコメンテーター?が務まると思います。

別の番組(BSで夜10時ごろやってる番組、名前忘れました)でも有識者?と呼ばれる人が「時間指定は値上げするなら。普通の荷物は値下げをするべき。一律値上げは問題」と言ってました。この人は大学教授のようです。やっぱり問題理解していない。サラリーマン以下の知識で専門家づらするのはやめてほしいです。

こうした視聴者のご機嫌取りをするマスメディアや有識者?も企業を苦しめる原因になっているのでしょう。

”送料無用”はあり得ない

こうして読んでいると宅配業界には大きな問題があるようです。宅配業者をブラック企業呼ばわりして批判しても解決しません。確かに明確な経営方針もなくシェア争いして現場に負担を押し付けている経営者も無能かもしれません。しかし企業がブラック化する背景には取引先の無茶な要求があります。宅配業界の場合、過剰な値引きやサービスを要求する通販業者やサービスに甘える利用者の存在が宅配業界がブラック化する理由の一つにありそうです。

利用者がお金を支払う気がしないのは結局買ってる品物にも価値を認めていないから。なのかなって思います。物自体に価値を認めていないなら、運んでるところが見えない送料にも理解がないのは当然かもしれません。送料を請求すると怒る消費者。悲しいです。

苦しいのはどこも一緒といいますが。それだからいつまでたっても労働者が悲惨な状態に置かれたままなんですね。

この本の最後の章で著者はこのように書いてます。

宅配便を使ってる利用者が、労働に見合う運賃を支払っているのかを見分ける尺度がある。それは自分自身が、あるいは自分の子どもを宅配業界で働かせたいと思うかどうかである。

 

宅配は社会のインフラとして定着しました。僕も通販はよく利用するのでなくなったら困ります。今後もサービスを保てるかどうかは我々の意識にかかっているのかもしれません。今が宅配について考える良いきっかけなのかもしれませんね。

 

 

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