「なぜ科学はウソをつくか」科学をとりまく無理解と腹黒い人々

テレビのコメンテーターでお馴染みの竹内薫氏の書いた本です。

タイトルだけ読むと「科学は悪者」のような印象をうけます。でも竹内氏は科学的な内容をわかりやすく伝えることを仕事にしています。決して科学を否定しているわけではありません。

世の中に科学は必要。でも科学には闇の部分もある。という本です。

竹内氏は科学者ではありません。作家です。科学はいい部分だけでない。悪い部分もある。と書いてます。特にこの本では科学を取り巻く世の中について批判的なことを中心に書いてます。

根っからの科学者にとっては、耳の痛い部分もあるかもしれません。でもそういった問題点を明らかにすることで、さらによい世の中になる切っ掛けをつくろうという趣旨で書かれているようです。

色あせた科学・マスコミとお役所が日本を壊す

見出しは竹内氏の著書からそのまま引用しました。第1章の見出しは「色あせた科学・マスコミとお役所が日本を壊す」です。

理科離れが進む日本の社会で何が問題なのか竹内氏なりに分析しています。

マスコミの科学音痴を直せ

竹内氏は作家です。テレビにもよく出演しています。当然、マスコミに関わる仕事も多いです。

竹内氏はいくつかのテレビ局で科学コーナーを担当したことのある数少ない人物。テレビ番組制作の裏側をよく知ってるだけに様々な問題点が明らかにされるんですね。

まず問題なのが「テレビ局やマスコミ内部に科学を理解している人がほとんどいない」という事実。理系出身の社員はいても、証明や音声や技術の仕事につかされてしまう。キャスターもディレクターも番組の内容に関わる人達はほとんどが文系出身。科学音痴な人ばかり。当然、科学への理解はないから、科学のネタが取り上げられることはほとんどありません。

「科学の理解には文学のような想像力が必要」とは竹内氏の言葉ですが、たしかにそのとおりです。難しい理屈はあっても、それを理解するには想像力も必要なんです。

でも、テレビやマスコミが求める単純なわかりやすさとは程遠い世界です。

たまに科学がネタになるのがノーベル賞のとき。でもマスコミ自身が科学を理解できないから的はずれな質問ばかりしてしまう。結果的に受賞者の人柄や個人的なエピソードに終止してしまうのはいつものとおり。

マスコミの世界は文系の世界。そんな文系ムラ社会で科学が理解されるはずはなく。得体の知れないもの扱いで避けられてしまう。

そうなると国民も科学を知る機会が減ってしまう。

日本国民はテレビや新聞、マスコミの影響を大きく受けています。そのマスコミが科学音痴で科学の情報を伝えないために国民も科学音痴になってしまう。というのが竹内氏の持論。たしかにそれはあると思います。

日本で科学者育成が機能しない理由

竹内氏はマスコミだけでなく国の教育についても問題を訴えています。

なんと、文部省はどんどん科学に関係する科目を削っているのです。

1973年ごろまでは高校で物理学は必修でした。

しかし1973年には高校生の物理学の履修率は95%だったのに1994年以降は30%になってしまいました。

文部省が削ってしまったのです。

物理学はなくても困らないという人は多いでしょうが、物理学は科学の基礎です。物理学の履修率が90%から30%に落ちたということは、それだけ科学を目指す人が減ることを意味します。

つまり、理科離れは文部省が作ったんです。

僕自身は化学が専門で物理学は苦手でした。でも物理学は必要だと思います。

文部省は国を滅ぼす致命的なミスをした。

というのが竹内氏の意見です。

もう一つ問題点があります。

少子化が進んで受験者が減ったので、大学は少しでも多くの受験者を集めようと大学受験を簡単にしました。つまり、大学は受験科目を減らしたんです。そのやり玉になったのが科学関係の科目。

受験に必要のない科目は熱心に教える必要がない。というわけで教育の現場では科学を教える機会が減りました。

研究者を支える環境も日本は未熟です。

1990年代、文部省は博士号の取得者を増やす政策を行いました。ところが博士号が増えても働く場所がない。企業の採用が増えるわけでもなく、大学の研究者の枠が増えるわけでもない。受け皿がないまま、数だけ増やしたのです。ろくに仕事のない博士号が増えてしまいました。

現代ではこの本が書かれたときよりもさらに研究関係の予算は削られ研究者を支える環境は悪くなっています。政治家も官僚も科学に理解がない。

ますます日本の科学は衰退するのは間違いないでしょう。

科学の闇・カネと権力、疑似科学にまみれた世界

第2章の話題は科学に関する闇の部分。といっても竹内氏の自叙伝のような内容。

ありていにいえば学生時代に挫折して科学者になれなかった若者が個人的な正義感を振りかざして世の中が悪いと文句をいってるだけ。

子供じみた理想論の世界を夢見ていたのに現実は違った。そこで夢を諦めてしまう。思春期によくある中二病の症状です。内容的にはどうでもいい話なので軽く読み飛ばします。

科学者になることを挫折した若者は作家になりました。でも科学を捨てきれず科学関係の作家になります。ところが作家人生を始めた竹内氏はスキャンダルに巻き込まれてしまいます。

疑似科学が反乱する日本

作家になったばかりの頃の竹内氏に出版社から企画が持ち込まれます。ある本の共同執筆者の一人として竹内氏は「量子重力理論の問題点」という解説記事を書きました。

ところが竹内氏は出版された本を見てびっくり。それは「それでも相対性理論はまちがってる」という科学を否定する本でした。

持ち込まれた企画は疑似科学の内容だったのです。

疑似科学とは、マイナスイオンとか◯◯クラスターとか科学的な根拠はないのに科学的なもののように説明すること。

マイナスイオンなどというものは存在しないのですが、それがあるかのように宣伝されて商品に使われています。日本にはウソだらけの商品が溢れています。

ちなみに竹内氏はマイナスイオンに健康にいいという根拠はないと言ってますが、マイナスイオンの存在は否定はしていないようです。あれ?やっぱりニセ科学者じゃ?

それはともかく、竹内氏は科学界からは「信用出来ないやつ」扱いとなり、科学界からは敵視されることになったと書いてます。

確かに出版社は記事に書いた人の意思とは無関係に売れる本を出します。でも竹内氏も迂闊でしたね。少なくとも量子重力理論について否定的な内容の記事を書いたのでしょうし。今さらその気はなかったと言っても信じてもらえるでしょうか?

有名教授からの異常な攻撃

日本の科学会からは追放されたと主張する竹内氏ですが、とくにある教授からは執拗な攻撃を受けたそうです。

テレビでお有名な大槻義彦教授です。大槻教授からは執拗な嫌がらせを受け、仕事の妨害をされたそうです。

大槻教授は知人に竹内氏の本が信用できないという内容の書評を書かせたそうです。ほかにもことあるごとに仕事の邪魔をしたそうです。

竹内氏の本が科学出版関係の受賞対象になると、審査員の科学者から妨害が入るそうです。

この本の内容とは関係ないですが。

大槻教授って、その世界では権威のある人なんですけど。外から見てると科学という宗教を信じてる人に思えます。

どの世界にもその筋の権威な人はいます。そんな人の中には他人のいうことを聞かない偏屈な人がいます。なまじ頭がいいだけに面倒くさい存在です。

こういう人がいると科学は進歩しません。斬新なアイデアが出ても潰されてしまうからです。

日本には自然科学分野で何人ものノーベル賞受賞者がいますが。その多くは外国の大学、地方の大学、企業で研究してる人です。東京の大学の研究者でも海外の受賞者がいて共同で受賞してる場合が多いです。

日本の学会内で候補になってる人は、なかなか受賞しないというジンクスがあるんですね。日本の学会は権威主義的な世界になってしまってるんでしょうね。

竹内氏も変な人に目をつけられてしまいましたね。

この辺も日本の科学の闇かもしれません。

とまあ、この本には他にも様々な内容が書かれています。

原子力発電は本当に怖いか?

原子力は現状では利用せざるをえないという内容になってます。この本は東日本大震災の前に書かれました。今こんなことを書いたら非国民扱いですね。竹内氏は科学界会だけでなくマスコミ業界からも干されるんじゃないでしょうか。

書いてること自体はまっとうなことだと思うのですが。

エコロミーのエコノミー

これも東日本大震災以降、話題にならなくなった地球温暖化の話題。人間の出す二酸化炭素が原因ではない、という説も披露されています。温暖化は地球や宇宙の側に原因があるというのは産業分野と関わりの深い研究者がよく主張する説です。確かにその主張も正しい。温暖化は太陽や地球など自然環境の変化によっても起こるからです。

確かにマスコミで流される温暖化情報は変でうさんくさいです。だからこそ東日本大震災のあとは誰も報道しなくなりました。本気で温暖化対策を進めようとすると現在の技術力では原子力に頼らなければいけないからです。

でも「温暖化は自然現象だから仕方ない」で済ませ。人間が相変わらず資源の消費と環境破壊を続けてもいいという理由にはなりません。被害を減らす対策は必要です。

この本の書いてることは確かに納得できる部分もあるのだけれど、経済活動を優先する産業界よりな内容になってるような気もしますね。

それでも科学を応援したい

この本のあとがきには「それでも科学を応援したい」とタイトルがついてます。

目先の利益だけを求めて「それが何の役に立つのか」と科学の研究・教育を否定するマスコミや国民。利権に群がる研究者や学者。国の将来を考えようとしない政治家や官僚。

様々な問題点が書かれています。ですが科学そのものが悪いのではありません。それをとりまく人間の態度が問題。そんなことを考えさせられる本でした。