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映画「空母いぶき」は原作とは別物

映画「空母いぶき」を観に行きました。

原作はかわぐちかいじ氏の漫画「空母いぶき」。ということで期待していました。どうも公開前から変な注目を集めたりして心配だったんですが、どんな内容になるのか気になったので観に行きました。

観た感想としては、

原作とは別物。

もともと原作は日本が今現在抱えている問題を鋭くえぐるようなきわどい作品。これが映画化されるなら凄いと思ったのですが。やはりそうはいきませんでした。

日本の映画界。というか日本全体が抱える弱点を見てしまったような感じです。

映画を観た感想を書きますが、ネタバレ要素があるのでご注意ください。

目次

映画版「空母いぶき」の感想

大まかなあらすじはこうです。

東南アジアの過激な民族主義国家「東亜連邦」が日本の島を占領。海上保安庁の巡視船が攻撃され乗員は捕虜になってしまった。島の奪回と巡視船の乗組員の救出のため、政府は近くで演習をしていた自衛艦隊を向かわせた。

この自衛艦隊は最新鋭の航空機搭載護衛艦「いぶき」他、イージス艦2隻、汎用護衛艦2隻、潜水艦1隻からなる艦隊。

島にむかう自衛艦隊の前に東亜連邦の派遣した正規空母1隻を含む艦隊が出現。戦闘が始まります。

と、これだけを見れば架空戦記物でありそうなシチュエーションです。

敵は中国ではなく架空の国

東亜連邦というのは架空の国。ちなみに原作では「中華人民共和国」が敵です。

現実の世界では中国が尖閣諸島の領有権を主張しています。もし中国が実力行使に出て島を占領したらどうなるのか?その時日本はどうするのか?というのが原作の着眼点のようです。

ところが映画では敵が東亜連邦という東南アジアの小国に置き換わっています。そればかりか中国が国連軍として登場するという180度違う扱いに。

なぜそこまでして中国に忖度するのかわかりません。

これがハリウッド映画なら「チャイナマネーには逆らえないから中国を悪者にできないんだよ」となるのですが。日本も同じなのでしょうか?

まあそれは良しとしましょう。国の名前が変わっても映画の内容は変わらないはずです。

でも東南アジアの小国が航空機60機搭載する航空母艦や日本本土を射程に入れる長距離ミサイルを持ってるなんてありえないですよね。長距離ミサイルは某国も持ってますが。さすがに空母は無理。

平和主義を押し通す政府と現場で苦労する自衛隊

自衛隊と他国が交戦する設定の物語で必ず問題になるものがあります。それは「戦争放棄」した国・日本と、専守防衛のため自分からは戦えない自衛隊の立場。

専守防衛を貫くと必ず自衛隊に犠牲が出ないと行動できません。今回も偵察機が撃墜されて死者が出ることでようやく、いぶきを中心にした艦隊(以下いぶき艦隊と書きます)も行動可能になります。自衛隊員の命は紙より軽い。これほど人命軽視した組織が現代に存在するのですから異常です。でもそれが問題にならないのが日本という社会。

映画でもその矛盾点には触れられるのですが「戦争放棄」の名のもとにさらっと流されてします。現行法に従えばそうなりますよね。

ともかく艦隊と東亜連邦の戦闘が始まります。でも劇中のいぶき艦隊は「できるだけ敵に死者を出さない」戦い方をするためどんどん味方の損害が増えていく。

世界のどこに味方の損害より敵の損害を気にする戦闘組織があるんでしょうか?

でも劇中のいぶき艦隊は神業的な戦い方をするので味方の死者はあまり出ません。ご都合主義的展開です。

衝撃(笑劇)のラスト

「外交交渉に差し支えが出るので、できるだけ戦闘はするな」という政府の命令のもと。いぶき艦隊は神業のような戦いぶりで善戦します。でも脱落する船がいたりけが人が出てだんだん厳しくなってきます。

そして東亜連邦の総攻撃が始まります。いぶき艦隊ピンチ。そこに現れるのが米露英仏中の国連軍の潜水艦艦隊。国連軍がいぶき艦隊と東亜連邦の艦隊の間に入って戦闘を終わらせます。

国連軍が出現するだけで紛争が終わるなら世界中で紛争はなくなるよね。

と突っ込みたくなります。

それができないからPKOは苦労してるのに。

そもそも国連自体が機能していないし。

映画を作った人は国連軍がみたいに思ってるのかもしれません。国連軍が来たら戦争は終わるんだ。と思ってるのでしょう。

ちなみに島を占領した東亜連邦は撤退しました。捕虜になった巡視船の乗組員は島に残されたみたいです。

ずいぶんと聞き分けのいい占領部隊です。普通は上陸したらそう簡単には撤退しないでしょう。

エンタメ業界の人は現実社会の事情は知らないのかもしれませんが、ここまで外交オンチだと笑えます。

領土が占領されても、死者が出ても、相手国がどこかはっきりしてるのに相手国の責任を追求しない。あいまいにして終わらせたらお互い平和だよね。っていう日本人独特のムラ社会根性が国際社会で通用すると思ってるところが怖い。そういう感性の持ち主同士ならそれでいいです。それが通用しない相手だから劇中のシチュエーションが発生してるのに、日本人の外交センスのなさを改めて思い知りました。

一見すると難しい理屈を言ってるようですが、内容的には おとぎ話 を見ているようでした。

原作を読んだ人なら、そもそも中国は戦ってる相手でしょ。なんで正義の味方になってるんだよ。とツッコミが入るところでしょう。

無駄なシーンが多い

あと、護衛艦いぶきには演習航海を取材するためジャーナリストが2人乗り込んでます。でもこの人達必要でしょうか?

護衛艦が炎上するシーンがネットに流出する場面があって戦争が起こると思った客がコンビニに押し寄せるシーンもありました。でも、現実に他国が領土を占領しても日本は戦争放棄を貫くのがこの作品のテーマだと思えるので、このシーンは必要ないです。

むしろ領内で何が起きていても「国民は終始平和なつもりでいた」という危機感のなさを表現したほうが問題提起になると思います。

また最後の場面で記者がネットに感想文を投稿していました。いち個人の主観を垂れ流しても何の解決にもなってません。何のため流したんでしょうか?

まあ衝撃的なシーンを出して世論を先導するのはジャーナリストの得意とするところです。でも動画を見てる方はどういう事情があるのがわかりません。単に衝撃的なシーンを流して個人の主観を流すのは世論を謝った方向に導く危険があります。

中井貴一が店長を務めるコンビニのシーンも無駄です。何かの伏線になってるのかな?と思いましたが記者が買ったお菓子がそのコンビニのものだった。という程度。女性のコンビニ店員が戦死したパイロットの奥さんだった。とかいうオチかと思ったんですがそんな描写もありませんでした。

おそらく平和な世界と誰も知らないところで置きている危機を対比させる意味でこの場面を設定したのでしょう。

でも上映時間の限られる映画で関係のない場面をポンポン入れられるとテンポが悪くなってしまいます。コンビニのシーンはもっと減らしても良かったと思います。

日本らしい映画

結局、他国との問題があっても国連が解決してくれる。日本は従来どおり「平和、平和」と言っていればいい。

というわけで終わり。

うーん。原作の「空母いぶき」ってそんな漫画でしたか?

それとは正反対の日本の防衛政策の問題点を浮き彫りにするような作品だったと思うのですが。

原作が連載終了していないのでラストは適当に終わらせるしかないんですが。一番安易な方法で終わらせましたね。

でも、日本の問題点というか日本の映画・テレビ業界の問題を見てしまった気がします。

「日本の国土をどうやって守るのか」という問題がタブーになってる日本の社会では原作の漫画のストーリーを映像作品にするのは無理だと思いました。

この映画に「空母いぶき」というタイトルがついてなければこれほど違和感はなかったと思います。「まあ日本の映画ならこんなもんでしょ」で終わったと思います。

おそらく今後も映画や実写作品では防衛・安全政策に関係する話題は扱えないと思います。明らかに言論・表現の自由が束縛されているのですが、それが問題にならないのも日本の面白いところです。

とはいえ、大勢の人に観てもらわないと元が取れない映画では「誰もが共感できる内容」におとしめられがちです。その結果、安易なヒューマニズムを主張する安っぽい内容の映画ばかりになってしまう。

それならなぜこの作品を映画化したのかがよくわからないです。こういう映画を見に来るのは大半が原作ファンのはず。でもファンはこんな映画が観たいんじゃない。原作漫画の世界がどのように実写化されるのかが観たいんです。

ここにこういう話題を扱った作品の難しさがあると思いました。

でもCGで描かれる船や飛行機はよくできています。いかにもなCGっぽさがなくてリアルです。それだけでも観た甲斐があったかな。と思うことにしました。

というよりそこしか見るべきところははないです。

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