リストラ交渉団最前線に立つ

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かつて僕が体験した出来事をお話しします。

ある週末の夜。実験室で残業してると会社から呼び出されました。
僕を名指しで呼び出しです。

応接室に通されると、そこには二人の会社役員がいました。
一人は専務取締役、一人は取締役。

声の漏れにくい6人座ったらいっぱいになりそうな部屋。
広いとは言えない部屋。
そこにいたのはこわばった顔の二人の会社役員。
ただ事でないことを意味してます。
僕より背の低い60歳過ぎの専務が発する、静かだけど妙に重々しい威圧感。

入った瞬間に「ついに来たか~」と思いました。

その場で聞かされたのは、会社が人員削減をするということ。
僕の予想は当たりました。

どういうやり取りをしたか。
今となってははっきりとは思い出せません。
とにかく、その場では精一杯の平静を装ってたつもりでした。

会社にはすでに相談する相手は残っていません。
誰にも言えず帰路につきます。

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季節は暑い夏がおわり。
涼しい風がふきだしたころでした。
寒くはありません。でも。
一人で家に帰る僕の体は震えてました。

 

リストラ交渉に挑む

 

社員の中で一番最初にリストラを知らされたのは僕でした。
それは僕が従業員代表だからです。
要するに労働組合のトップです。

従業員の代表として会社と交渉の最前線に立つことになったのです。

もちろん交渉にあたったのは僕だけではありません。僕を含めた組合役員です。
リストラの知らせを聞いたのは週末。すぐには行動を起こせません。
とにかく電話で他の組合役員に連絡をして、会社から言われたことと週明けにすぐに対策を話し合うことを伝えました。

まだ家族には言ってません。これからどうなるか状況がよくわからないし、心配かけたくなかったからです。

こういう言い方をすると「冗談じゃない!」という人もいるかもしれませんが。
僕一人がリストラを言われた方がもっと気分は楽だったでしょう
従業員とその家族の生活がかかってしまったのです。
ありふれた言い方をすれば、仲間とその家族の生活が自分達にかかってる。
でも漫画のキャラのような使命感はわきません。

「なんで今なんだよ」
「なんで僕がやらないといけないんだ」
「やるならもっと早くやればよかったのに」

その一方で。
「これからどうする?」
「あの役員たちと交渉するのか?」
「何ができるんだ?」

頭の中に浮かんでは消える、様々な想い。
生殺しの様な週末でした。

 

なんで僕が代表になったのか

そもそもなんで僕がそんな立場になったのか。
知りたい人は少ないとは思いますが、しばらくお付き合いください。

あなたは「お前が立候補したんだろ」と思うでしょう。
残念でした。そうじゃありません。

勝手に選ばれる選挙

僕のいた組合は100人あまりの組織です。
代表を決める時はいちおう立候補者は受け付けます。でもだれも立候補はしません。そりゃそうです。普通に仕事して、プライベートな時間をつぶして活動するのです。面倒な役目を自分からやりたいって思う人なんかいません。町内会の役員より面倒くさいです。

選挙で選びます。立候補者のいない選挙です。
学校でクラス委員を決める時と同じ。勝手に名前を書く選挙です。「互選」といいます。めんどくさい役目の押し付け合い。でもそうやって従業員の代表を決めて、会社と交渉してきました。

もちろん代表クラスになると、いきなり選ばれるわけじゃありません。下っ端役員をやった経験者から選ばれます。僕は何度か下っ端役員をやった経験はありました。正直、下っ端のやることはたいしたことありません。

活動の一環としてほかの会社の人たちとも交流して情報交換しました。他の会社の労働事情が聴けたのは大きな収穫でした。社内でこもっていたらできない貴重な経験もできました。自分のためになると思った部分もあります。そのときの知識や情報や経験は今でも会社ネタとして使わせてもらってます。

ところが代表クラスは全然負担が違います。今回みたいな大きな事件があればなおさらです。

そういう組合役員に選ばれるのは、職場でリーダー的な人、なんとなく頭のよさそうな人でした。

一つの敷地に従業員100~200人がいる会社です。同じ社内で仕事してある程度知ってる人を選びます。人気投票にすぎない知事選よりはよほどあてになる選び方でした。 少なくとも前任者まではそんな人が選ばれてました。選ばれた方はたまりませんが。

でも、なんで僕なの?僕でいいの?こんな時期に?という想いでした。

 

大企業とは違う中小企業の事情

従業員数千人数万人の大企業なら組合活動だけやってる人がいます。「専従」といいます。組合からお金をもらって生活してます。もちろん、そういう人がいるからほかの社員は仕事に専念できるんです。でも組織が大きいほど専従と一般従業員の感覚とはずれます。

世間の人が思ってる労働組合のイメージは、そんな専従の人たちやそれに近い人達がやってる大企業の組合の活動です。メディアが紹介するのはそういう人たちだからです。おそらく、あなたが思ってる労働組合のイメージと僕たちのやってる活動は違ってる。

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僕たち中小の組合員はそんなことしてる余裕ありません。
ああいうことできるのは暇な人たちか、日常生活や仕事を犠牲にしてでもやりたい切実な問題のどちらかなんです。
僕たちがやってるのは従業員と会社が話し合う社内のルールつくり。目の前の問題を解決するので精一杯です。

まあ、いちおうメーデーくらいは出ました。地方の。

たとえて言うなら市民として仕事をして生計を維持しながら、ボランティアで市会議員もやってる感じです。

自分の意志に反して選ばれる人ばかり。でも、よほどの理由がないかぎりは多くの人が引き受けてました。実際にはいろいろ問題はありましたが。そうすることで会社に対する自分たちの発言力を維持してきました。

自分たちの待遇をよくするのは自分たち。現実にそうして給料を上げてきたし待遇、職場の環境も改善されてきました。というより、自分たちが動かないと何も変わりません。

 

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僕も断る理由がなかったので引き受けました。

そんな組織があったおかげで会社の規模や業績のわりには良い待遇を勝ち取ってきたのです。

考え方によっては会社の負担を増やした一面もあったかもしれません。でも経営不振は経営者の責任です。

あとで転職した会社は業績がいいのに劣悪な環境で働いていました。一方的に会社の決めたことに従う従順な社員ばかりだったからです。

転職後に思ったのは「かつていた会社は恵まれていたんだ」ってこと。

とはいえ、つぶれたら意味がありませんね。
バランスが難しいです。

とまあ、いきさつはともかく。
僕が代表になって初めての交渉が人員削減!

勘弁してほしいです・・・

 

次回に続きます。
リストラ最前線・始まった交渉

 

これまでのいきさつ
だまされた!では済ませられない・あなたの思い込みは大丈夫?