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整理解雇の4要件とは・リストラ最前線

kaiko

いよいよ、本格的な人員削減交渉が始まりました。
僕は従業員代表として交渉に臨みます。

まず求めたのは会社の情報公開。
本当に経営が悪いということを示す資料です。
解雇をするような場合、会社には説明責任が求められます。

会社は全社員を対象に業績説明、人員削減に至った経緯を説明しました。
それだけでは不十分です。
決算報告書などの内部資料の開示を求めることも必要になります。
貸借対照表があればさらにいいですね。

 

目次

明らかになる会社の惨状、知らない方が幸せな世界

 

我々は交渉を通じて過去3年分の損益計算書を手に入れました。
それ以外にも交渉を通じて過去のいきさつ、会社がしてきたことを知りました。
入手した会社の資料に目を通したとき愕然としました。
株主や銀行が見てるのと同じ資料。嘘はないはずです。

営業赤字が出ても、内部留保を取り崩して経常黒字に見せかけてたり。それができなくなったら、赤字を垂れ流ししてました。

過去にも営業利益が赤字なのに経常利益では黒字の年がありました。どこに億単位の赤字を埋める収入減があるのか不思議でした。そのカラクリはたんなる内部留保の取り崩しでした。さらに直近の2年間は資本金と同等以上の経常赤字を出してました。

僕の会社は税制上の中小企業の認定を受けるため。資本金は5億円以下(ほぼ上限に近い)です。その資本金に匹敵する経常赤字を垂れ流していました。

kessann

 

よく銀行も我慢してたと思います。
単なる赤字のレベルではなくなっていました。

まだ会社が潰れてないのが不思議なくらいでした。厳しいなとは思ってましたが、まさかそこまでひどい状況とは思っていませんでした。大本営発表を聞かされてた国民の気分です。

今更ながらに今までの見通しの甘さを感じました。
情報公開を迫ることで、逆にこちらも身動きが取れない状況にはまっていきます。役員の首を取ったくらいではどうにもならない。しかも、銀行が支援を打ち切るといえば社員の給料は出ません。

 

再建より回収が優先・銀行に押し切られた会社

たとえ会社がつぶれても、銀行が新しい経営者を送り込んで再建する。と考えてる社員もいました。

でも、似たような仕事をしてる中堅企業なんていくらでもあります。価値のない会社をわざわざ再建しようとするでしょうか?それより借金の担保に入ってる土地や財産を売り払って資金を回収した方が銀行にとってはメリットが高いはず。メガバンクの意向はそれに近いものでした。

今回会社がリストラに踏み切った裏には銀行の圧力がありました。交渉の場では銀行の考えてるスケジュールも入手しました。負債の取り立てを猶予するなら、いついつまでに合理化するというスケジュールが決められていました。

これって貸しはがし?と腹も立ちましたが、回復のめどが立たず赤字を垂れ流す企業です。いつまでも助けるほど銀行もお人よしではないことはわかります。会社に資金を融資していたのはいくつかの銀行でした。メインバンクは地方銀行でしたが。メガバンクにも借りてました。とくにメガバンクが強硬に取り立てを主張し、地銀も追従する形になったようでした。

何も知らないほうが勝手な批判をできて楽だったかもしれません。

 

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後で知ったその時の銀行の思い

実は、転職後にこのとき会社に資金を貸していたメインバンクの地方銀行の方と話しする機会がありました。まったくの偶然です。世の中どこで繋がってるかわかりません。

このときの会社の危機感の薄さについて聞かされてました。地銀はメガバンクより地元企業には優しいといわれます。でも、その地銀もさじを投げたくなるほどのひどさだったのでした。会社の説明は嘘ではなかったのです。

 

整理解雇とは

 

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交渉で問題になったのは整理解雇をするか否かです。

整理解雇という言葉はあまりなじみがない人もいるかもしれません。
このての「失業しました的」記事だと単純に「リストラされた」って書いてる人が多いですよね。その方が読者の「ウケ」がいいのは間違いありません。だからタイトルにもあえてリストラの文字を使いました(笑)。
でも、リストラって何なのか理解してる人は実はあまりいないようです。素人はもちろん、マスコミでも正しく使えてないです。

解雇には普通解雇、懲戒解雇、整理解雇があります。
普通解雇と懲戒解雇は従業員の側に原因がある場合。
整理解雇は会社の都合で行う解雇です。

経営悪化を理由に会社の再建を行うときの方法のひとつです。
この「会社の再建策」がリストラクチャリング(Restructuring )。

会社が経営不振から立ち直るときに、組織、事業内容、人員の構成を見直して再建するための方法全体のことなんですね。

でも、従業員の側からしたら無理やり会社を辞めさせられる感覚しかないので、
「リストラ=首切り」という意味で広まってます。

本当は「リストラ=首切り」ではないんですね。

会社の経営悪化により再建を行う中で、人員整理のためにやる解雇が「整理解雇」。
整理解雇はリストラクチャリングで行う手段のひとつですが、解雇そのものをリストラと呼んでる人が多いです。

もちろん、当時はそんな言葉の定義を考えてる暇はありませんでした。

いずれにしても。
解雇される従業員にとってはたまったものじゃありません。

 

整理解雇の4要件とは

 

整理解雇の時に問題となるのが「整理解雇の4要件です

東京労働局の資料「しっかりマスター労働基準法・解雇編」にはこうあります。

 

整理解雇
次の4点をいずれも満たすことが必要です。
① 整理解雇することに客観的な必要があること
② 解雇を回避するために最大限の努力を行ったこと
③ 解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われていること
④ 労使間で十分に協議を行ったこと

 

整理解雇の4要件は法律で決まってるものじゃなく、裁判所の判例がもとになってます。
最近の裁判では4要件すべてを満たしてなくても解雇は有効と判断されることもあります。絶対的な効力があるわけではありませんが、人員削減の時は必ず問題になります。

会社はあまり触れたがりません。でも交渉の材料としては絶対使うべきです。
逆に人員削減の交渉時に4要件を話題にしない交渉団は無能です。素人集団だと思われてなめられても仕方ありません。

4要件を満たすために会社が何をしてきたのか、交渉の場では説明を求めました。

 

人員削減の必要性があるか

 

1については今回は人員削減しないと経営がなりたたないというのは仕方ないと思います。

それを知るためにも、複数年度の決算資料などの会社の経営状況を示す資料の提出を求めなければなりませんでした。余力があるのに勝手な人員削減してるのかどうかの判断をするためです。

今回の場合は資料を見れば見るほど会社の言い分がもっともだと思えるほど酷いものでした。

資料の公開は会社に口実を与えてしまう材料にもなりますが、我々も事実を知る必要があります。たとえそれが自分たちに不都合なことでも逃げてはいけません。自分たちに都合のいい情報だけ集めて交渉するという、どこかの野党みたいな方法もありますが。それではお互いのためになりません。あとで困ることになるでしょう。

 

削減回避の努力をしてきたか

2、整理解雇を回避するための努力。
人員削減は再建の最終手段です。それまでには会社はできる限りの回避策をとってないといけません。
会社役員報酬の削減、新規採用の抑制、配置転換、希望退職など。
役員の数はこれに至るまでに6人体制から4人に減ってました。役員報酬の削減もすでに行ってます。役員をさらに減らし削減幅をさらに大きくするという約束を取り付けました。ここ数年採用はありません。

前年からは雇用調整助成金を利用しての臨時休業も行われました。部門の統廃合もやってます。希望退職はこれからですが。
となると、整理解雇を回避するための要件を満たしつつあるといえました。

 

説明・労使交渉はしたか

問題となるのは3と4です。

4は、労働組合あるいは労働者側と交渉することがその義務となります。社員に対する説明も必要です。管理職に対しては会社が説明し、一般従業員に対しては労働組合が間に入り説明しました。

従業員の意見を集め、その意見を取り入れて交渉します。交渉経過はその都度、従業員に報告。そしてまた意見を集める。その繰り返しです。必要があれば従業員の集会に会社役員が出席して説明するという提案を受けましたが、その機会はありませんでした。我々だけで説明できるから不必要。と考えたので会社役員を呼ばなかったのです。

会社の説明会でも一般従業員で質問する人はいませんでした。

4要件の中でも労使間の協議は最も重視されます。たとえ経営が苦しくても何の説明もなくある日突然解雇なんてのは認められません。
でも実際にはワンマン経営のブラック企業ではよく行われてます。解雇にもルールはあるというのを従業員は知らないと思ってるんじゃないでしょうか。

3については一番大きな問題でした。
なかなか結論は出ませんでした。

kaiko

 

希望退職募集始まる

 

希望退職については従業員の間にも「仕方ない」という考えは広がり。
希望退職の募集が開始されました。

募集方法は一度全社員に希望用紙を配布します。
希望退職する人は用紙に名前を書いて受付においてある箱に入れるという方法でした。

会社の圧力はダメ

ここで注意しないといけないのは、
従業員が会社から圧力を受けないようにすることです。

希望退職届を出すように会社から言われたり、無言で圧力をかけられることがないか。
もしそんなことがあれば、組合に相談してもらうようにしました。

幸いにも相談を受けることはありませんでした。
他の会社では圧力はあるようなので気をつけたいところです。

会社の引き留めもダメ

逆に引き留めがあった場合も問題となります。
「会社に残すのだからいいではないか」という意見があるかもしれませんが。
会社を出るのは個人の自由です。
希望退職は会社にとって”いてほしい人材がいなくなってしまう”リスクがあることをわからせる必要があります。
辞めたい人が残ったおかげで、ほかの人が辞めることになってしまうかもしれません。

 

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それでも交渉は続く

会社が目標としたのは全従業員の30%を削減するというもの。
単純に人件費を計算すると30%削減でも厳しいですが、我々としては削減人数は少ない方がいいのは間違いありません。

ただ、それだけの人数が希望退職で集まるのは難しいのではないか。
というのが当時の僕の考えでした。

削減人数を減らして賃金を下げるという案も考えましたが、会社の掲げた目標はそのままでした。

並行して、退職した従業員のための再就職先探しも始まりました。これは会社が行ったものですが。満足な再就職先は探すことはできてない様子でした。リーマンショック直後の厳しい時期だったこと、人員削減をすると決めてから日数が少ないことも理由として考えられました。

期待はできませんが、再就職先探しは交渉の度に議題に上げました。
毎日のように現在何人が希望退職届を出したか連絡を受けました。
募集している間にも労使交渉は続きます。

人員を削減したあとの会社をどう立て直すのか。
統廃合される部署はどこなのか。

そんな内容も話し合いました。ただ、人員削減後の展望についてはあまり明確なビジョンはないようでした。それでは人を減らしても同じことの繰り返しになるのではないかと、不安に思いましたが。会社としては「とにかく銀行に納得してもらうために人員を減らしたい」そんな思惑が見えました。

希望退職者に対する退職金の上乗せ交渉も行います。満足とはいえませんが、幾らかの上積みを得ました。

こうして、週に2、3度の交渉を約一か月間続けました。
この間、胃の痛くなることがたびたびありストレスで胃薬のお世話になりました。
交渉対手の会社役員にも気を使われる有様です。

kusuri

 

 

希望退職募集の終了

希望退職に応じた人数で会社の対応が決まります。
その内容次第で整理解雇があるかないか決まるといっても過言ではありません。
そうなると交渉団の対応も変わります。途中経過から想像できる人数は悲観的なもの。

その判断次第でこちらの対応も変わります。
そしていよいよ整理解雇するか否かその決断の日が来ました。

 

これまでのいきさつ
1:だまされた!では済ませられない・あなたの思い込みは大丈夫?
2:リストラ交渉団最前線に立つ
3:希望退職は仕方ない・リストラ最前線

 

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